新しいリズムを探して 1

2019年、私たちサウボナ・ミュージックにとってもビッグプロジェクトの一つ、

小沼ようすけさんのJam Kaカルテットがついについに岡山にやってきます。

そうと決まればお話をお伺いするしかない!

2019年7月時点での最新作、「Jam Ka 2.5」でさらに進化した小沼さんの音の世界観の原点にあるというグアドループの音楽との出会いってどんなものだったのか。

はたまた、今、世界が熱い視線を送るフレンチカリブのミュージシャンたちのこと、クレオールジャズのことなど伺ってきました。

2019年2月、井上銘さんとのライブの翌日。興奮も冷めあらぬ中インタビュースタートです!

 

 

「自然の香りのするリズム」を探して。

 

 

サウボナ(以下、サ) 今回はお時間をいただき、ありがとうございます。

では早速始めたいと思います。

前回は小沼さんと音楽との出会いを中心にお話をお伺いしました。

読んだ方からとてもご好評でした。

今回はフレンチカリビアンの音楽とについてお伺いしたいと思います。

どういった経緯でフレンチカリブの音楽に出会われたのですか?

 

小沼ようすけ(以下、小) 最初の出会いは2007年か2008年くらい。秋田から上京して2001年にデビューし、自分のアルバムを5枚くらい出したタイミングで、自分の表現について悩んでいた時期でした。東京から海沿いに引っ越したのもその理由で。キューバンやアフリカン、あとブラジリアン音楽といった民族音楽、感覚的な言い方をすると「自然の香りのするリズム」を取り入れていた時期で。

 

サ 自然の香りというのは?

 

小 都会的というよりは、もっとプリミティブな感じというか。色々と試行錯誤していました。

いざやってみるとやはりそれぞれの音楽ごとに特化したコミュニティーがあって、どんなジャンルも既に開拓されきっている感じでした。で結局、自分のジャズのスタイルと融合しようとしてもそっちに引っ張られちゃう感じがあって、悩んでたんです。

かといってキューバとか、アフリカの音楽に特化した物をやりたいのかっていうとそうじゃない。

自分の持っているものをもっとユナイトしたい、ジャズであったり、今までやってきたものを。

 

サ  なるほど。

 

小 その時に一枚のアルバムを聞いたんです。サックス奏者ジャック・シュワルツバルト(*1)の"Soné Ka Ra"でした。彼はディアンジェロやRHファクターとかのホーンセクションをやっていて、ニューヨークの最先端の仕事をやっていたから、てっきりニューヨーカーなんだと思ってたんですが、彼のアルバムを聴いたら、最先端のハーモニーと共に太鼓がバコバコ言ってて、「これはなんなんだ?」って引っかかって。アフリカンリズムっぽいけどなんか違う。

かと言ってキューバンリズムとも違う。もっと中低音が効いていてシンプルで、カッコいいリズムだなと思って。

基本はジャックの持ってるニューヨークの現代的で都会的な音楽なんですが、そこに「自然の香りのする」要素や存在がありのままドッキングしているように思えました。

そのアルバムを紹介してくれたのがデビュー前から付き合いのあるMocloud musicの松永さん(*2)だったんです。

 

サ  そうだったんですね。

 

小 僕は(この音楽を)「一緒にやってみたい!」って思って、どうしても会いたくなっちゃたんです。

で、松永さんにどんな人が叩いているのか聴いたら、パリで活躍するグアドループ出身の音楽家だと言います。ジャック・シュワルツバルトはルーツがグアドループ(*3)で、お父さんがフランス人、お母さんがグアドループ出身だったんです。

フレンチカリブにルーツを持ちつつフランス経由でニューヨークに渡ったミュージシャンだったんですね。

その時はじめて「フレンチカリブ」、「グアドループ」という言葉と出会ったんです。

僕は趣味でサーフィンをやっているんですけど、グアドループを調べてみるとサーフィンもできる。で、直感的に「その海に入りたい!」って思ったんですよね。「海も、その土地も、音楽のパワーも同時に体感できたら最高に幸せだろうな…」って。それが一つの目標になったんです。

 

サ  いいですね!

 

小 実はジャックと松永さんはすごく仲がいいんですよ。彼のレーベルからジャックもアルバムを出していたりするんで。

 

サ  へー!

 

小 もともと僕がライブしている時に何度かジャックを連れてきてくれていたんです。確か、初めての共演は麻布のクラブイエローで、2003年あたりじゃないかな。彼のアルバムに衝撃を受けた後、改めてお願いして、ジャックと繋いでくれて。それで新しいアルバムを彼がプロデュースしてくれることになったんです。

ジャックは新しいアルバムのために自分の住むニューヨークにパリのフレンチカリビアンでグオッカリズムのスペシャリストであるアーノウとオリヴィエの2人を呼んでくれたんです。彼らとNYのミュージシャン達でレコーディングしたのが 「Jam Ka」。それが一番最初のフレンチカリブの音楽との出会いです。長くなっちゃったけど…

 

サ  いえいえ!おもしろいです!

では最初にフレンチカリブの音楽を聴いてから2、3年くらい後に完成したんですね。

 

小 色々と制作に時間がかかるのでどうしてもそれくらいはかかってしまいましたね。

 

サ  最初に音を合わせた時、どんな印象でした?

 

小 ひとつは「すごいやわらかい」って感じました。彼らに初めてあった時の印象も最高だったんですよ!ピースフルで、やわらかくて。人間性というか…、そこでもうやわらかいリズムと秘めた情熱みたいなものを感じて。

セッションした時の印象は…、やっぱ彼らの音楽は特有のペースがあるじゃないですか。自分が少し先に行きすぎてるって感じがしました。彼らはもっともっと「一緒にくっつきながら盛り上がっていく」みたいな感じ。じっくり、じっくり、こう、組み立てていくんです。そのうちジワジワーって熱くなっていく感じがあるんですよ。

最初のうちは僕も初めてのことだったから、ちょっと焦っちゃって。その、ゆったりとおっきなグルーヴを、こう、エネルギーを、こう、どんどん、ゆっくりゆっくりたくわえていく、みたいな感じがして。自分はちょっと早く高まっちゃうのを感じて。少し焦っちゃう、みたいな…。でも何回か繰り返していくうちにだんだん、すっと馴染む瞬間があって。

焦りとか、初めての人たちにいい所を見せたいとか、スタジオはニューヨークでドキドキする所も一杯あるし、盛り上げたいとか色んな雑念が自分の中にあったけど、ぜんぶ彼らは見守ってくれて。

 

サ  へえー!

 

小 ジャックは良いプロデューサーだから、「みんなで盛り上がっていこう!」とか「ようすけ、それ行くのはもうちょっと後だよ」とか。先生みたいに言葉で伝えてくれる。

 

サ   ジャックさん、お幾つくらいなんでしょうかね?

 

小 ちょうど一回り上です。

 

サ   本当に先生みたいですね。

 

小 色々なリズムとかテクニックを教えてくれるんですよ、口で歌って。

 

サ   本当にプリミティブな口伝のようですね。

 

小 何度も何度もジャックの家に通って自分の楽曲を持っていって、試しにジャックが僕の楽曲をグアドループのリズムに乗せてくれるんです。そこでリズムをおしえてくれたり、グォッカが合うようにテンポや拍子を変えたり、メロディやハーモニーアイデアをくれたりそういう作業が2週間くらいあってからレコーディングに臨みました。

だから、徐々に徐々に「自分が憧れていたものにアジャストしていった」感じでしたね。

 

サ   アジャストしていく感じ。面白いですね。

 

小 なんかこう、憧れているものと出会った瞬間、最初は自分もちょっとウキウキすぎちゃって(笑)

思っていた以上に彼らは思慮深いし、想像していた以上に、今まで自分が感じたことのないくらい音の深いところへ連れていってくれる。彼らと一緒に音を紡ぐことで。

これが「音と音でつながっていく」ってことなんだなって改めてわかってきた。

 

サ   それはすごく大きい経験でしょうね。

 

小 当時はパーカッションの2人は英語もあまり喋らなくて、筆談とかジェスチャーで3人で会話して。言葉以上に音楽で会話し、盛り上がれたことがすごく良い経験になりました。

 

サ   自分の持っているルーツである「ジャズ」とミックスするというより「アジャストしていく」っていうのは、1回彼らの中に入り込んでいくっていう感覚でしょうか?

 

小 「うまくリズムに乗るっていうこと」が一番最初かなって思っていましたね。彼らの出すエネルギーにうまく乗っていくってことが出来ないと話にならなかったと思うので。

 

サ   その感覚はサーフィンとまるで同じですね!

 

小 力が入った瞬間に全てが終わる感じ。新しく見つけた大自然の中の美しいサーフスポットのようなリズムでした。

 

サ   サーフィンもやっぱりそうなんですか?

 

小 サーフィンもそうですね。力が入った瞬間にカッコ悪いことになってしまいますね。

波のエネルギーを上手く使った時にはじめて色んなことができるから。

 

サ  「使う」っていうのも、「制覇する」って感じとも違うんでしょうね。どちらかというと「同期させる」というか。

 

小 そうそう!すごい似てるなって思った。

 

サ   昨日のお二人(井上銘さんとのライブ)の演奏もそういう感覚を覚えました!

エネルギーが自然に合わさっていくような印象がありました。

 

小  そうですね。自然発生的に音が生まれていく。



(続く)




(*1)ジャック・シュワルツバルト フランス海外県グアドループ出身のサックス奏者。ディアンジェロ、ロイ・ハーグローブ、ミシェル・ンデゲオチェロ、共演歴を見れば納得の才人。音楽を始める前はフランスの上院で働いていたという変わった経歴の持ち主でもある。

(*2)国内外の良質なアーティストの作品を多数発表している音楽レーベル、MOCLOUD MUSIC GROUP代表、松永誠一郎氏。

(*3)カリブ海に浮かぶフランス海外県。日本における沖縄的な立ち位置だという。フランス語とクレオール語が使われている。

Sawubona Music

Sawubona!こんにちは。 サウボナミュージック です! 素晴らしいアーティストのインタビューや 音楽ライブを岡山を中心にお届けします。 お問い合わせ、ライブのお申し込みはお気軽に。 sawubona.music@gmail.com までどうぞ!

0コメント

  • 1000 / 1000