鉄工所の犬、魚屋の猫 坂田明インタビュー2

インタビューには前日グッゲンハイム邸で坂田さんとライブをされた中島吏英さんも同席してくださいました。坂田さんの音楽、言葉、哲学的な話から化学、生物学、そして命の尊厳の話まで。思わずメモが取りたくなるくらい面白い話が続きます。北極星に向かって生きてる!なんて言葉、そうそう出会えませんよ。冴え渡る坂田さんのお話、一大パノラマをどうぞお楽しみください。


惑わされるから目を閉じる


サウボナ:坂田さんのやっておられるような音楽って、先ほど話された「レトリック」の部分も踏襲しながら、レトリックが生まれる前の原始的なもの、魂の部分、みたいなものを全面に出しているっていうことなんでしょうか?


坂田:分からんね。(きっぱり!)


サウボナ:!!!!! おもしろい!分からないんですねぇ。


坂田:分からないんだよ。


サウボナ:やりながらも分からないんですね。


中島吏英さん(以下りえ、敬称略):分かることをやってるなんて坂田さんじゃないですよね。


サウボナ:おおおおおおおお!なるほど。

分からないことを、ずーーーっとやってる?昔からその感覚は一緒ですか?


坂田:うん。ずっと分からない。


りえ:分かったら次の分からない、が出てきますよね。


坂田:そう。新しい分からない、がね。


サウボナ:じゃあずーーーーっと分からないが続く?


坂田:新しい「分からないもの」に向かって動いてるっていうことなんだよ。


サウボナ:りえさんもその感覚はありますか?


りえ:私は飽きっぽいから、飽きたらすぐに前に進む感じ。飽きないもの、が好きですね。

飽きないものってなんだろうって考えると、やっぱり分からないものだったり、間違えたとこだったり。どうして間違えたんだろう?とかね、そういうの全部含めて。ねぇ?(と坂田さんを見る)


坂田:うん。そうそう。


りえ:正しいこと、は何もないから。

間違いを磨く。失敗がおもしろかったり。おかしいってなんだろう、とか。

最初は自分ひとりでおもしろいなって思ってることが個人的な感覚だと思ってたんだけど、人前でやって見たらみんな一緒なんですよね。飽きてきたな、とかちょっとダレるなとかも自分だけの感覚かと思ってたら案外みんなもそう。そのタイミングとか流れとかって、みんな一緒に動いてる。そうなったらすぐに動かして行く。そしたらみんなまたそれについてきてくれる。あ、一緒なんだな、っ分かってからはあんまり周りのことを考えなくなりました。


サウボナ:とことん自分と向き合う?


りえ:そう。一緒だから。


坂田:したいことをする。


りえ:そう。(自分以外が)何を見てるのかな、何を聴いてるのかなって分かんない。 

私自身は見てるのが好きなんですよ。目をつぶるよりも目を開けて、その風景や何が起こってるのかを見ながらやる。見たら入ってくる。で、見たら忘れちゃう。じゃないと今度は意識しすぎちゃうから。


坂田:俺は見たら惑わされるんだよ。目をつぶってる。


サウボナ:惑わされる。それはどういう感覚ですか?


坂田:それに対して何かしようとする。


サウボナ:リアクションをしようとしてしまう?


坂田:そう。リアクションしようとしたら、その時はもう遅いんだよ。実は。

聴いて自分の感覚で「ここだ!」って思った瞬間でもう音を出してないと。見てから、見たものが入ってきてからだともう遅いんだよ。


サウボナ:ああ、そうですよね。

こないだ「たった今」はもう過去だ、っていうお話を聞いて。たった今、って認識してる時にはもうそれは過去だ。って。


坂田:うん、過去だね。そうだね。


サウボナ:じゃあリアクションをしようとするっていうのは、それは過去に対してであって今に対峙してないってこと?


りえ:頭で認識するまでにもうだいぶ時間がかかりますからね。


坂田:だから自分の全身の感覚を研ぎ澄まして、なおかつ自分が音を出して、人の音も聴く。で、それを全体としてどう捉えるか、ってこと。たくさんの視点がババっとある。それが同時に進行してる。自分の中にね。

それが総合的に動いてる。

トチ狂っている自分を見てる自分がいるわけだよ。

ただトチ狂ってるんじゃなくて、トチ狂ってるな、もっとトチ狂っちゃおうかな、って思って見てる自分もいる。で、思った瞬間にはもうトチ狂ってるんだけどね。


サウボナ:思った時にはもう始まってるんですね笑


坂田:始まってないともう遅れちゃうからね。

あっ、あの瞬間だったよなぁ、参っちゃうなあってね。


りえ:それはありますねぇ。


坂田:あるでしょ?今この瞬間が良かった、ってのがあるんだけど。そうしたらもう次の瞬間を待つんだよ。で待ってるうちにそれも忘れちゃって次の瞬間が来たら、お!っみたいな。そんな感覚的な世界ですよ。


サウボナ:あああ。もう。おもしろいです。すごい話になって来ちゃった。


オレは北極星に向かって生きてる


坂田:だから非常に感覚的で生理的なことが現場で起こってるってことですね。

自分がやってない時はね、何をやってるんだろうって考えるよ。そりゃね。でやっぱり分かんないんだよね。笑

だけどどっちを向くのかなってのはありますよ。


サウボナ:どっちを向くのかな?


坂田:どこを向いて自分は生きているのか。

俺はもう、北極星に向かって生きているから。えへへへ。(笑)


サウボナ:それはどういうことですか?北極星??


坂田:要するに、命っていうのはなんだろう?って思ってる。


サウボナ:!!!!!!!(もう何も言えない)


坂田:音楽をやるのは人間がやるんでね。人間は命だから。命はなんだろうっていうふうに考えてずっとやって来たんだけど、ある日ミジンコを見たんだな。※1

ミジンコの透明な姿を見ると、あ!命だ!って思った。あ、おんなじだ!スッゲー!って。命が透けて見えんだよ、ミジンコは。命ということだから、よく坂田さんミジンコの研究もなさって、なんて言われるけど、研究ってことでもないんだよ。ミジンコの命を見つめるってことと音楽をやるってことは俺の中では全部一体となってることなんですよね。一体となってる。


りえ:どうつながってるんですか?


坂田:どうつながってるなんて知りませんよ。笑

もし繋がりがあるんだとしたら、命である、ということ。

ミジンコ一匹の命とオレの命は等価である、ってこと。


サウボナ:ミジンコが日々過ごしていることと、坂田さんがやっている音楽活動もご飯食べてとかっていう生活も含めて、おんなじってことですか?


坂田:うん。おんなじ。

そりゃスケールは違うんだけど、生きてるってこと、命のありかたね。それは同じ。で、我々とミジンコ、ほかの動物も植物も菌類も、エネルギーを持ってるんです。命ってことだから。そのエネルギーの元ってのはATPってものなんだよ。


りえ・サウボナ:ATP…ってなんですか?


坂田:アデノシン、トゥリー、フォスフェイト。アデノシン三リン酸。学校で絶対習ってるよ。笑

それを細胞の中のミトコンドリアで作ってる。そのミトコンドリアで作ったATPを使って体を日々作り変えてる。で、体温を維持してる。そんなことをしてる。バクテリアも菌類もね。だからそのエネルギーの共通通貨がATPであるっていうことに対して俺たちは本当に敬意を払ってない。食物連鎖だなんて、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。命そのものの尊厳というものがある。喰われたくて生きてるモノなんて誰もいないんだよ。ミジンコに至るまで。

喰われたくないために脱皮の度に頭とんがらしたり、尻尾とんがらしたりするミジンコは結構いるんだよ。にも関わらず残念ながら喰われちゃう。でそういう状況であるながら必死こいて卵を産んで、自分たちの子孫が滅びないようにしているから何億年もミジンコはいるんだよ。何億年もミジンコがいるから、魚もエビもミジンコ食ってる。そういうものをオレらが食ってる。それを図式的に食物連鎖だなんて言ってるけど、それは命の尊厳のパノラマみたいなもんなんだよ。

そういうことなんだよ。

だからそういう景色を自分の中に持ってんいるんだけど、自分のやることは訳のわからないことをやってるってこと。そういうことなんだよ。


サウボナ:自分でもよくわからない?


坂田:分からない!

私は分かってます、なんていう奴がいたらクソッタレ、このヤローって思うもん。そうじゃないだろ?分からないこと、ホントくだらないことを必死こいてやるってことが生きてるってことなんだよね。

私はいいことをやってます、人のためにやってます、例えばボランティアとかね。それだってそれをやることによってその人の役割ってものがあるから社会ってものは存続してるわけですよ。ね?だからみんな一人一人に役割がある。生き物いっこ一個に全部役割がある。そうやってこの宇宙ってのは存在してるわけ。

片いっぽうでそういう状況があるわけ。

そんな中で自分が勝手に何かやってる。全体のなかで私はこうだな、って。

やってることは世界ってものに通じるような、何か訳のわからないもの、であってもらいたい、とオレは思ってる。


サウボナ:自分のやってることが、全体の世界と通じるような何か訳のわからないものであってほしいということ?


坂田:うん、そう。だからオレと一緒にやりたいっていうふうに思ってくれる人があちこちにいてくれるとすごく嬉しいわけ。やりたいと思ってる人がいて俺ができる状況だったら大抵はやります。何が起こるかわからなくても、やります。へへ。笑


泡沫を生きる よく分からない、を生きる



サウボナ:はぁ。もう。すごい面白い。

正直、坂田さんが演奏されるような音楽(坂田さんは一般的には難解とされがちなフリージャズのアーティストです。)聴けば聴くほど訳は分からんけど、なんかね、引っかかるものはどんどん出てくるんです。それが自分でもなんなのかわかんないんですけど。いまお話を伺っていても近いような感じ。その都度風景のようなイメージのようなものは出てくるけど、それがどういう意味の繋がりなのかって自分で消化はできないけど、なんかねぇ。


りえ:ミュージシャンって大概、自分の喋りと、音楽で出す音って一緒ですよね。笑


サウボナ:へえ!おもしろ!言葉と演奏で出す音が一緒ってことですか?


りえ:演奏と話し方、あと間も。喋る時の間と演奏の間。あ、またこの人、入りそびれた!みたいな笑


坂田:そうだね笑


りえ:間の取り方って、やっぱりみんな独特だし、それって喋るのと似てる。やっぱり言語も絶対入ってきてる気がする。生活リズム、生活、その人から出てきてるものだからかな。


坂田:それとまあ、一緒にやるっていうことは対話をしてるってことだから。だからそういう対話をする中、相手のことをどのくらいおもんばかって、自分のことをその中でどこまで主張するか。主張するっていうと何か意味のあることのようだけど、その中で喋ってるだけなんだよね。


サウボナ:音も含めて、そこに存在していることだけに意味がある?


坂田:そのことがどうなのか、ってことなんだよ。つまりそれはお客さんが次にやる時に来るか来ないかってこと。笑

もう一回聴こうって人が、まあ3人いてくれたらいいと思ってオレはやってるからね。3人でいいんだよ。


サウボナ:それはもう嫌われてもいいから自分をとにかく曝け出す、ってことですか?


坂田:まあそうだね。嫌われることが別に目的ではないけどね。だけど好かれようと思ってそのことをメインにやってる訳じゃなくて、自分がやりたくて誠心誠意、一生懸命わからないことをやって、意味がないかもしれないけど、肉体と精神、両方を追い詰めて、絞り出して、それでダメだったら、ダメだと思うんだよ。

潔く諦める!いさぎおいし、かの山!!笑


サウボナ:わははは。ノート落ちそうになりましたよ笑

坂田さんのオフィシャルサイトのタイトルは「泡沫を生きる」ですもんね。


坂田:そうです。泡沫(うたかた)ですよ。よく分からないものを生きる。


りえ:泡沫を生きるTシャツ!


サウボナ:わ!いいな、それ!作りましょうよ!


坂田:やめてやめて。恥ずかしいよ!(つづく)

Sawubona Music

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