魔術師について教えてください。

まだまだ前のライブのレポートも残っているのに、みなさんにお知らせしないといけないのが、何と言っても公演日も迫ってきているオマール・ソーサのこと。
「キューバの至宝」、「鍵盤の魔術師」と、とにかくイカつい枕詞がつくオマールさんですが、具体的にはどこが、どうすごいのか?くわしい人(優しい人でもある)に聞いてみよう!ということで、いつものごとく、知識はほぼゼロの状態で飛び込んできました。
しっかりと受け止めてくれた方は、大阪を拠点に活動中のパーカッショニスト、亀崎ひろしさん。
亀崎さんはキューバでアフリカ起源の様々なパーカッションの修行をされていただけあって、私たちが聞き馴染みのない言葉や、習慣についてもすごくわかりやすく、丁寧に教えてくださいました。
そして、これがとっても面白い!
鍵盤の魔術師のすごさがなんとなく明らかにできればいいなあ!とせつに願いながら、インタビュースタートです。


ー よろしくお願いします!

亀崎ひろし(以下、亀) よろしくお願いします。

ー では、まずは亀崎さんのプロフィールを教えていただけますか?

亀 大阪でパーカッショニストをやっています。12年ほど前、キューバにパーカッションを習いに行って、その後もニューヨークやメキシコシティに習いに行ってました。今は関西を中心に演奏活動したり、録音に参加したり、パーカッションのレッスンをしています。

ー なるほど。ありがとうございます。
なぜキューバを選ばれたんですか?

亀 もともとアフリカン・パーカッションが好きで有名なジャンベっていう太鼓をやっていたんです。そこから南米のアフロルーツの音楽にも、アフロキューバンにも興味が湧いてきて、それを生で体感したい!って思って。最初にキューバに行ったのは2006年に大阪のベースプレイヤーの山田さんという方と、ダンサーのトモコさんという方が企画したツアーで下見的に連れて行ってもらったのが最初ですね。そのあと、2008年に自分一人で1年弱、10ヶ月ほど滞在してました。

ー その間はパーカッションの師匠について学ばれたんですか?

亀 そうですね。ひとことにパーカッションって言っても色々な楽器があるので、各楽器のスペシャリストがたくさんいるので、各楽器の先生について、楽器ごとに教えてもらう形ですね。コンガだったら、コンガ。ティンバレスはティンバレス。バタだったらバタという感じでそれぞれの師匠について教えてもらっていました。いまだに家族ぐるみのおつきあいが有りますよ。

ー なるほどー!
ちなみに、今回のオマール・ソーサの公演でも機材リストに「バタ」というものが入ってました。私たちは聞き慣れない楽器なんですが、キューバではポピュラーな楽器なんですか? 


亀 「バタ」という太鼓は元々はナイジェリアの方から来た人達が持ち込んで、キューバで発展していったサンテリア(*サンテリーアともいう)という宗教の祭事のための楽器だったそうです。だから少し特殊な位置付けなんですが、キューバではバタがとても身近にあったせいで、ジャズやポピュラーミュージックによく使われるようになったと言われています。

ー じゃあ本来はお坊さんが叩く木魚のような位置付けなんですか?

亀 その通りです。

ー あるパーカッショニストの方から聞いたのですが、「洗礼」を受けたバタは女性が触ってはいけないそうですね。
「洗礼」とはどういうものなんですか?

亀  叩く人は洗礼を受けないといけないんですが、バタのドラム自体も洗礼を受けるんです。言い伝えのようなもので、洗礼を受けたバタを女性が触ると病気になったり、悪いことが起きるといわれています。元は神話に基づいているらしいですね。
あとはバタに宿る精霊へのリスペクトを忘れないために地べたに置いてはいけないとか、厳格なきまりがあるんです。

ー おもしろい!
それはキューバで教わったんですか?

亀 そうですね。キューバの師匠からも教わりましたし、メキシコの友人のサンテリアの司祭にも教わりました。
ちなみに、サンテリアはブラジルではカンドンブレと言われたり、アフリカの同じ部族の人々が奴隷として連れていかれた様々な地域で、いろんな呼び方で信仰されているようです。
キューバではサンテリアと呼ばれています。

ー亀崎さんにとってオマール・ソーサ ってどんな位置付けのアーティストですか?

亀 全ての音源を網羅しているわけではないですけど、アフリカンやアフロキューバンの文化を軸にして、それこそ、バタを使うようなサンテリアの音楽の影響を感じます。
特に、今回も来日するグスターボ・オバージェスとのライブ盤「ayaguna」。このアルバムで聴ける二人のリズムと独特の感性がすごいんです。

ー 独特の感性とは、具体的にはどういうものなんですか?

亀 パーカッションをやっていると、よく耳にするリズムやアプローチがあるんです。
いろんなラテンジャズの音楽を聴きますが、他で、彼らと同じようなアプローチをしているアーティストはいないと思います。
「ayaguna」では曲の題材はあるとしても、ライブでその場のインスピレーションで作り上げているので余計にそう感じたのかもしれないです。
ayaguna

どんどん二人の会話が広がって行く様子が面白いなーと思いましたね。
なんとなくこういうのをやってると、「あ、これはこのリズム使ってるな…」というような感覚が良くあるんですけど、この人たちは「一体何考えてるんだ…」って感じで独特なオリジナリティーがあります。あと、そこに「勢い」と「エネルギー」が乗っかってる感じが感じとれるというか。…

(つづく…)

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